「亜米利加ニモマケズ」

アーサー・ビナード エッセイ集


 

たとえば、毎日使っているごはん茶碗。

たまたま家にあったからなんとなく使っているだけだったのですが、そこに目利きのアーサーさんがやって来ました。

 

「素敵なご飯茶碗をつかっているね」と話しかけられました。

キョトンとしていると、「ほら、見てごらん」と様々な知識と視点で説明が始まります。

形、重さ、手の馴染みやすさ、置いた時の安定感から釉薬や土についてまで・・

いとおしそうに大切に手の中でひっくり返したりなでたり話は続きます。やがてアーサーさんのぬくもりで温かくなった茶碗を私の手に戻しながらもう一度「素敵な茶碗だ」とつぶやきます。

さあ不思議。「なんとなくのご飯茶碗」が「お気に入りの茶碗」になってしまった瞬間です。

 

そんな風にアーサーさんが日本語を手にとって味わってみたり煮だしてみたり、短い一遍、一遍を読み終えるたびに日本が好きになり、言葉の大切さに立ち止れる。

その上なぜか亜米利加も近しいものになって行くんです。

 

ありふれたものに触れられる喜び。

またアーサーさんにやられてしまった・・うふふ。

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