「日本語 ぽこり ぽこり」

アーサー・ビナード エッセイ集

 

日本に住むアメリカ人の目に映る不思議、疑問、文化の違いなど様々な「日本」をまとめたエッセイ集。時々は「アメリカ」もあるし、「世界」も出てくる。中身を少しご紹介すると・・・・・

 

例えば、くしゃみをした人にアメリカでは「Bless you」と言うけれど、日本では何も言わない、どうして?と思っていたアーサーさん。沖縄に行った時に沖縄口(ウチナーグチ)では「クスクェーヒャー」ということを発見した。くしゃみを引き起こさせた魔物に対して「糞食らえ」と言うのだ。「くさめ」という日本語もあるなと思って広辞苑で調べたら「くしゃみが出た時に唱えるまじないの語。〈休息万病(くそくまんびょう)〉を早口に言ったものという。」な~んだ、日本語にも「Bless you」や「クスクェーヒャー」と同じ掛け声があったのだ、と納得したという話。(「くしゃみ、糞食らえ」)

 

一時期出回った2000円札の欠陥を指摘したりもする。

2000円札の裏の源氏物語「鈴虫」の巻が取り上げられていることに期待を寄せていたアーサーさん。ところが実際の2000円札は、「月の宴」の場面の絵にテキストがびっしり重なっていて、これでは耳なし芳一ではないか、と落胆させられた。そのテキストがチンプンカンプンなので「源氏物語」を開き解明しようとしたら(わからないことはどんどん調べるという姿勢が、アーサーさんのすごいところ)、本来の9行の文章を真ん中で横にスパッと切り取って上半分だけを使っている。だから何が何やらわからない9行になってしまっているのだ。「古文だからどうせ誰も読めやしない」と日本人の言語力を見くびったか。(「お粗末お札」)

 

書きだしたらきりがないが、日本人が気が付かなかったことをこうまでも探し出して目の前に並べられるとちょっと悔しい。けれどそれがアーサーさんのアーサーさんたるところなのかも知れない。全国各地で開かれる講演会が人気なのは、この悔しさを味わいながら日本のことばと社会の繋がりに目を開かせてくれるからに違いない。

 

(t)